99.01.08

むうう、今日は大変だ。
久しぶりの学校なのだが、最後の実験でかなりの失敗をやらかした。
現在15時過ぎ。これからはじめからやりなおしだ。
間に合う可能性はゼロ。
遅刻の電話をしておくべきだろう。
どうでもいいがうちの学校は学生に放射性物質を渡して
「長時間浴びつづけると危ないよ。」はないだろう。
実験に必要とはいえ勘弁願いたい。
そういえば頭が痛い気もするぞ。
まあいい。
電話だ。
店にかける。
「はいもしもし。」
ん?この声は?
そこにいないはずの人の声を聞いて、思わず「あれ?」と言ってしまう。
向こうも俺が誰だか分かったらしい。
「僕Nだよ。」と店長の名前を出す。
決定。
こいつはAさんだ。
俺はかなりひるんだが、気を取り直して要件を告げる。
「えーーー、いやーーん。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・。
まったくこの人は。
「ダメ。」とかなら想像していたが、常に上を行ってくれる。
どうしても終わりそうにないと言ってやると、
「教授を出せ。教授を。」
と騒ぎ出した。
言い忘れたがAさんは実は俺の大学の先輩に当たる。
まあ8年間在学したあげく俺が入った年に卒業したらしいが。
ほんとにかわっていいのかと脅してやる。
今度は「ヤダ。」と言い出した。
さらに、「教授キライ。」だそうだ。
気持ちはわかるがまぎらわしいことを言わないでもらいたい。
とにかく遅れるといって電話を切る。
Aさんはまだいやーーんとか言っていたが、気にしたら負けだ。
無視して切ってしまった。
この電話のせいで到着が遅れるのは間違いない。

17時半。
意外と早く終わった。
友達に車で送ってもらい、店に着く。

まだ店長がいた。
残っていてくれたのだろう。
思ったより早かった。と喜んでいる。
普通なら文句を言うところだ。
この店の人は、基本的にいい人が多い。
まあ基本以外に余計なオプションがついているのだが。

店長が帰った後、Aさんがコンタクトレンズの具合が悪いと洗面所に駆け込む。
どうも1週間くらいつけたまま寝ていたそうだ。
そりゃ自業自得だ。
本当に痛いらしいが、俺はつけたことがないので知らない。
よって無視。
しばらく1人でレジを打つ。
どうでもいいが、Aさんは、そのへんでおかしい。
自業自得で症状を悪化させることが多いようだ。
まあこの人はどのへんでもおかしいんだが。
あかぎれをアロンアルファで固めて治療だと言い張るのもやめた方がいいとは思う。
でも、どうせ言っても聞かないので言ったことはない。

休憩をもらって、帰ってくるとレジでAさんがボーっとしている。
声をかけると、ぴくっと反応して動き出す。
どうやらレジで寝てしまったらしい。
そのまま動きつづけて、タフマンを持ってレジに戻ってきた。
そういえばAさんがこれを買うのは久しぶりだ。
もうやめたのかと思っていたのに。

1人でレジにいるとき、客が食パンとブルーベリージャムを持ってやって来た。
他にはなにも持っていない。
ピーナッツクリームにスプーンを付けようとした男の伝説がふと脳裏をよぎる。
確かにこれは付けてやった方が便利なのではないだろうか。
いやしかしこの場面で「スプーンを付けますか?」などと、俺には言えない。
想像してしまって、笑いがこみ上げる。
さらに葛藤は続く。
こいつがどっかそのへんでこれを食おうとしたら・・・。
やっぱ必要だよなあ。
でもそんなまぬけなことは俺には訊けない。
「はぁ?」とか言われたらどうしよう。
その間にも、伝説の場面は俺の中で回りつづける。
笑いが止まらない。

結局、俺はもはやなにも言えない状態になり、
くぐもった声で「あ・・りがとう・・ございました・・・ぷっ」
と言っただけだった。
だが、あそこまで笑いをこらえた俺はえらいと心底思う。
また、俺には伝説は作れないと深く感じた場面でもあった。

ようやく終わる。
I君ともう1人の夜勤が風邪で倒れた為、Aさんは1人。
ちょっとかわいそうだが仕方がない。
とっとと帰る。

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