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2002/09/30

 いいかげん携帯買え買えさっさと買え的圧力が日ごと高まるのを感じる今日この頃。
 今月のお買い物、追加。

「9・11/ノーム・チョムスキー著 山崎淳訳」(bk1)
 事件から一年。文庫化。ということで。
 読む前は、チョムスキー? 生成文法のあの人? ってな意識しかありませんでしたが、かーなーり政治的に踏み込んだ発言をしてる人でもあるのですね。認識改まりました。例のWTCとペンタゴンへの自爆テロの直後(九月、十月)にチョムスキーが事件についてのメールインタビューで述べたものをまとめた一冊。
 論旨は明快です。恐ろしいまでに明快。テロは悪。ではテロとは何か。それが問題。いや、チョムスキーの言を借りれば、これもまた明快に説明できるのですが、それは世界の現状からはけっして認められない結論です。曰く、アメリカはテロ国家である。
 こんな力強い文章(インタビューの回答なのに)ってひさしぶりなんで、なんかもう本文ぜんぶ引用したいくらいですが、一番インパクトのあったパラグラフだけ。なお、このインタビューは、米軍によるアフガニスタンへの空爆がなされる直前に行われたものです。

 一九八〇年代のニカラグアは米国による暴力的な攻撃を蒙った。何万という人々が死んだ。国は実質的に破壊され、回復することはもうないかもしれない。この国が受けた被害は、先日ニューヨークで起きた悲劇よりはるかにひどいものだった。彼らは、ワシントンで爆弾を破裂させることで応えなかった。国際司法裁判所に提訴し、判決は彼らに有利に出た。裁判所は米国に行動を中止し、相当な賠償金を支払うよう命じた。しかし、米国は、判決を侮りとともに斥け、直ちに攻撃をエスカレートさせることで応じた。そこでニカラグアは安全保障理事会に訴えた。理事会は、すべての国家が国際法を遵守するという決議を検討した。米国一国がそれに拒否権を発動した。ニカラグアは国連総会に訴え、そこでも同様の決議を獲得したが、二年続けて、米国とイスラエルの二国が(一度だけエルサルバドルも加わった)が反対した。しかし、これが国家の取るべき手段である。もしニカラグアが強国であったなら、もう一度司法裁判を行えたはずである。米国ならそういう手法が取れるし、誰も阻止はしない。それが同盟国を含め、中東全域の人々が求めていることである。

 現実の経過は衆知の通り。強国であるところのアメリカが取った手法は、空爆と地上部隊派遣でした。そして国際刑事裁判所(ICC)が自国の兵士を裁くのを拒否しながら、9・11のテロから一年が経ったいま、イラクへの武力行使に踏み出そうとしています。

2002/09/29

 そういえば今月は三連休が二回あったんだけど休出も二回あったんでチャラ。
 そんなかんじな今月のお買い物。

「ジオブリーダーズ 8/伊藤明弘」(bk1)
 戦闘ヘリだの原潜だのでわーっとなってた核騒動も終わり。八巻と九巻は主演梅崎真紀で日活拳銃活劇だぜい、というわけで「ダイナマイトが百五拾屯」の前半戦。見所は温泉と牛丼(コラ)。にしても湯船の中で潰れた銃弾がただようあたり、この人ならではのコダワリが。
「ラスト・ブックマン/とり・みき 田北鑑生」(bk1)
 あの「DAI−HONYA」の続編であります。活字文化が絶滅しようとしている未来、今度の敵は書籍ゴロでなく書籍データの独占を図る巨大企業調和社。対するは前作でも登場の書店管理官、紙魚図青春。いつものとりみき節といいますか、ダジャレに何コマも使う割にはけっこう登場人物とか多くて、前作のような明快さはないかも。ところで自販機本のボタンが「かなし〜い」とか「たのし〜い」とかだったりするのが、かなりブラック。ネットの小説って、もうそういう段階だしね……
「エマ 1/森薫」(bk1)
 十九世紀末のロンドンを舞台にした、貴族のウィリアムと、かつて彼の家庭教師だった婦人のもとで住み込みのメイドをしているエマの恋の物語。そうですめいどさんなのですめいどさんめいどさん。いや、めいどさんだけでなく、ほんとにこの世紀末ロンドンっていうのに愛着もって描いてるだなーというのがわかる丁寧な画面がすばらしいです。それにしてもめいどさんめいどさんめいどさんめがねをかけためいどさん。
「遠藤浩輝短編集 2/遠藤浩輝」(bk1)
 去年に出てるはずだった短編集第二弾。収録作は「Hang」「女子高生2000」「プラットホーム」、描き下ろしの「ボーイズ・ドント・クライ」の四編。近作の「Hang」、「女子高生2000」は露悪的なのが目に付くんだけども、「プラットホーム」はそういうのがなくて、削り込まれた鋭角な物語がすごーくいいです。ヤクザである父親に反発しながら少年期を過ごす主人公の鬱屈。安易なカタルシスを排する物語。なんというか、現在連載中の「EDEN」の原型を見るような気が。あと、これいうと作者はいやがるだろうけど、「エヴァ」だなーと。
地獄の黙示録 特別完全版/F・コッポラ監督作品」(amazon)
 たしか休出した日にヤケ買いした記憶があるDVD。
 オリジナルは79年ですが、特別完全版ってことでいちおう2000年公開の作品。追加されたシーンは49分。というわけで合計202分、これは正直長いですが、でも、わかりやすくなってるのはたしか。追加シーンのうち比較的まとまってる部分(だから削られたんだろーな)が、ウィラード一行が川を遡上していく途中でフランス人の農園に立ち寄るところ。密林に突如現れるいかにもな植民地風の邸宅。相当予算かかってたシーンのハズなのにまるまるボツとわ。
 つか、当たり前だけどコレ最初っから最後までCG使わなくてセットくんで撮ったわけで、こういう映画はもう二度とできないんでしょうなあ……(←The Endを聞きながらタメイキ)
「細川日記/細川護貞」(bk1 )
 戦中の昭和史とかで度々引用される日記。文庫になったんで読んでみました。著者は昭和十五年近衛文麿首相秘書官をつとめた人物。それとも細川元総理の父親っていったほうがいいんでしょうか。
 日記で書かれているのは昭和十八年十一月から昭和二十一年十月まで。これの史料価値が高いのは主に二点。ひとつは同時期、著者が近衛の意向を受けてできるだけバイアスのかからない国情を高松宮(最終的には天皇)に伝えるべく情報収集するんですが、そこで得られた数字がそのまま書かれていること。もうひとつは和平派の、とくにその中でも近衛派の動向が詳しく書かれていることです。
 著者はもちろん近衛派なんで(近衛は舅にあたる)、東条英機なんてもうボロクソにけなしてますが、内大臣木戸幸一にも厳しい評価をして、また近衛についても、しっかりしてくれよーと再三書いてあったりしてまして、さすが東条を刺してクーデターをとまで思いつめた激情家だけあります。
 あと、戦中の政治中枢でどういう戦況認識がなされていたかというのも興味深い点。昭和十九年中盤まで北海道方面への敵上陸の可能性が繰り返されていて、これは今日から見ればそんなんあるわけないやんってカンジなのですが、アッツ守備隊玉砕の与えた衝撃がそれだけ大きかったんだと解釈すべきなんでしょうか。国内情勢については共産化への懸念が言及されていて、有名な近衛上奏文も日記に全文引用されてます。これも戦後の目から見ると、なんだか力点の置き場所間違ってないかってカンジなんですが、当時の貴族階級にとっちゃ切実だったんでしょうねえ。

2002/09/23

 映画の帰り、入ったデパートがやけに混んでてナニゴトかと思ったら優勝してたんですね、西武。知らぬ間に(知らなさすぎ)

千年女優今敏監督作品」(amazon)
 というわけで銀座まで出張って観てきましたが、入りは半分くらいかなあ。観ようと思ってる人、はやくした方がいいかもしれズ。
 あらすじ。引退して久しいかつての大女優、藤原千代子のもとに映像制作会社社長の立花が、あるものを持って取材に訪れる。立花が千代子に渡したのはひとつの鍵。千代子にとっては女優時代の、そして初恋の人の象徴。そこから始まる千代子の回想は、過去の半生であったはずがいつのまにかかつての出演作になって、そこにインタビュアーの立花も登場し、ひとつの物語になってゆく。
 進むにつれて時間軸やら映画の中と外とが入り混じっていく構成というのは今監督の前作「PERFECT BLUE」なんかもそうでしたが、この二作でともに脚本である村井さだゆきカラーといってもいいかもしんないですね。同じく脚本を手がけてたアニメの「ブギーポップは笑わない」でも、とくにアニメオリジナルの部分には、そんなメタ的構造が目に付きましたし。で、この「千年女優」では千代子が回想する出演作であったり、千代子自身の恋物語であったり、戦中戦後の昭和の世相であったりが、パラにもメタにも語られていくわけです。ここらへんはちょっと前に出た「晴子情歌/高村薫」なんかもそうですね。
 とはいっても「晴子情歌」みたいな重々しさ(これはこれでイイのですよ、もちろん)はこの映画からは感じませんでした。千代子が語る映画というのはなぜか女が男を追いかける映画ばっかです。もちろんこれは現実の千代子と初恋の男との関係の投影なんですが、この追いかける側にいるってのが、千代子と晴子の最大の違いなんじゃないでしょうか。追いかける、一途な恋。くのいちだったり花魁だったりお姫様だったりしながらもたった一人を追い、過去から未来へ駆け抜けてゆく。終盤、それが細かいカットで畳みかけるようにして描かれます。このシーンの幻想的とさえいえる疾走感は一見の価値あり。これがアニメで観られてよかった。底の浅いアニメファンにも素直にそう思える佳作でありまする。

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