サンダンス・NHK国際映像作家賞2006 参加リポート
 
サンダンス映画祭とは?
 今年で25周年を迎えるインディペンデント系映画祭、サンダンス映画祭2006。アメリカ・ユタ州・パークシティをメイン会場に、冬期オリンピックで名の知れた、隣町のソルトレイクシティでも上映が行われている。日本でも「サンダンス」の知名度は高く、人によってはカンヌやヴェネチア等の三大映画祭よりも収穫の多い国際映画祭と感じることもあるそうだ。私はこの映画祭に関して「アメリカ・インディペンデント映画の登竜門」としての予備知識しか持たなかったが、ワールドフィルムやドキュメンタリー部門も充実しており、内容の濃いプログラムが綿密に組まれ、その多くの回のチケットが売り切れの状況を呈していることから、盛り上がりも十分な活気ある映画祭だった。

サンダンス・NHK賞 レセプション会場にてスピーチ

アドバイザー・ミーティング
 滞在は5日間ほどで、最終日の授賞式までに様々なミーティングやレセプション等がしっかりセッティングされており、やはり「仕事のために来た」という印象が強くなる。多数のミーティングは各国の有名な配給会社、セールス・エージェント、弁護士からアドバイスをもらえるというものだ。日本にいては直接会えそうも無い業界人とのミーティングは、今後のワールドセールスを目論むには身にはありがたく、勉強にもなった。同行したプロデューサーの西田宣善氏と共に、通訳を介して何度もプレゼンテーションを行なう。慣れないミーティングではあったが、持参した英語版の絵コンテが多いに役に立った。今回受賞した新作企画『クローン人間は故郷をめざす(仮)』は脚本の執筆後、私自身が既に全編分の絵コンテを入念に描き込んで仕上げてあり、130ページ分の分厚いビジュアル資料として相手にインパクトを与え、喰い付きの良い反応を受ける事ができた。いずれにせよ脚本の段階で海外のセールス契約を結ぶにはまだ早いが、今後の進展を細かくアプローチする事でうまく結果が出せればと考えている。
中央にヴェンダース監督
左から米・欧・日・ラテンアメリカ各部門の受賞者

ヴェンダース監督

ヴィム・ヴェンダース監督とのミーティング〜授賞式
 前述したミーティング・スケジュールの最後にはヴェンダース監督との直接のミーティングが組まれていた。私が「審査の上で受賞を決定するに至ったポイントは何ですか」と質問すると「一度脚本を読んですぐに決めた。群を抜いて優れた脚本だと感じた」との言葉が実に嬉しい。またヴェンダース監督は脚本を読んだ後に、私の前作『箱-TheBox-』も観てくれていたらしく、私が「あの作品は実験的要素の強い作品だから、今回の審査にはマイナスイメージを与えてしまうのではないかと心配した」と述べると「確かにあの作品は実験的だが、あなたの映像に対する強い創造力はよく分かった。今回の企画においてもその映像的なアプローチが重要になると思う」と私のスタンスに対する理解力を十分に示してくれた答えが返ってきた。
またヴェンダース監督は「この脚本には知的な要素がたくさん含まれている。しかしこの映画の強みは観客に対して感情的なコンタクトをしっかり持っている点だ。知的な要素はこの作品の内側に隠されているものであってほしい」とも話していた。他にも様々な意見や質問を頂いたが、ここに全てを書き起こす事はできない。
 ありがたいことにヴェンダース監督が写真展を行うために4月に東京に3週間滞在する予定であるとの事で、4月に改めて会って話をしたいと持ちかけてくれた。4月の再会が実に楽しみである。
 最終日の授賞式もサンダンス・NHK賞のプレゼンテーターをヴェンダース監督が務め、観客の注目の中で壇上に上がり、賞賛の拍手を受けて、今回の滞在のスケジュールは終了した。
ヴィム・ヴェンダース監督と
サンダンス映画祭 上映会場

サンダンス・NHK国際映像作家賞2006について
 さて、今回の私の訪問は「サンダンス・NHK国際映像作家賞2006」の受賞者としてのものである。「サンダンス・NHK国際映像作家賞」とはサンダンス・インスティチュートとNHKが共催するコンペティションで、今年で10年目を迎える。これは世界の次世代を担う映画作家を脚本コンペによって発掘し、制作支援を行うもの。アメリカ・ヨーロッパ・ラテンアメリカ・日本の各4部門から受賞者を選出し、賞金1万ドルの授与と、作品完成後にはNHKからの放送権の購入として1500万円が支払われる。映画祭への参加となると、通常ならば自分の作品が招待上映され、観客の反応を伺い知りながら、その後質疑応答やインタビューに答えるのがいつものパターンなのだが、今回はまだ脚本のみの段階であるにも関わらず、授賞式に招待されるというのが不思議な感覚であった。
ヴェンダース監督とのミーティング

レセプションにて受賞者の公式発表
「サンダンス・NHK国際映像作家賞2006」のレセプションに参加。ここで4部門の受賞者が正式に発表された。受賞者の名前と作品名は以下の通り。
●ヨーロッパ部門
パトリス・トイ監督(ベルギー)
作品名「春の儀式」
(原題:Spring Ritual)
●ラテン・アメリカ部門
フェルナンド・エイムボッケ監督(メキシコ)
作品名「タホ湖」
(原題:Lake Tahoe)
●アメリカ部門
クルス・アンヘルス監督
作品名「溺れさせないで」
(原題:Don’t let me Drown)
●日本部門
中嶋莞爾
作品名「クローン人間は故郷をめざす」
(英題:The Clone Returns to the Homeland)

会場で初めてヴィム・ヴェンダース監督と会う。ヴェンダース監督は今回のサンダンス・NHK賞の審査委員長でもあり、日本とヨーロッパ部門の審査を実質的に行なっている。私の脚本の審査に関して、強く受賞に推してくれていたと事前に聞いていたこともあり、お会いできた事が実に嬉しかった。私が壇上に上がり短いスピーチを行なった際、「まだ10代の頃に『パリ・テキサス』を観て強い感銘を受けた。その作品の監督が、こうして今自分の脚本を受賞に導いてくれたのは、実に人生のユニークさを実感する出来事だった」と述べた。

授賞式

今回の参加を終えて…
 振り返ってみて、今回の訪問はこれまでの他の映画祭へのものとは全く異なるものであった事が実感としてある。製作後の作品の評価としてではなく、これから製作されるべき映画の脚本の段階で賞を与えられた事は、この作品の完成に向けての大きな自信を与えられた。またこれまで映像的なアプローチに主軸を置いていた私にとって、脚本のみのアプローチは初めてのトライアルであったし、それがこのような評価に繋がり認められた事は、自分自身の創造力の枠組みをさらに一歩広げられたという実感につながるものだった。
 もちろん今後の製作作業における問題点や弊害は山積みされている。しかしこの受賞の実績を残した脚本を元に、再び自分の最大の武器である映像美の力を存分に駆使する事を考えると、まさに武者震いする思いである。
 完成は早ければ2007年の春を予定している。皆様、傑作を御目にかける日をいましばらく御待ち下さい…。 
 今回の渡航、滞在に関して様々なご協力を頂いた全ての方々、特にサンダンス・NHK賞のプロデューサーである上田信さん、事務局の村田千恵子さん、現地でお世話になりっぱなしだった実に優秀なボランティアスタッフの皆さん、中でも通訳をしてくれた清水たかえさんに、心から感謝を申し上げます。ありがとうございました。
2006/2/4 中嶋莞爾

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