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第95回「スペース・カウボーイ」

監督…クリント・イーストウッド
脚本…ケン・カウフマン(『アフリカン・ダンク』) 、ハワード・クラウスナー
撮影…ジャック・N・グリーン(『マディソン郡の橋』)
音楽…レニー・ニーハウス (『マディソン郡の橋』)
キャスト…クリント・イーストウッド、トミー・リー・ジョーンズ
ジェームズ・ガーナー、ドナルド・サザーランド
ジェームズ・クロムウェル、ウィリアム・デベイン

2000年ワーナー・ブラザース/上映時間2時間10分

<CASTジャック&ベティ>
ジャックの評価 /ベティの評価

…金かえせ!! / …いまひとつ
…まあまあ/ …オススメ
…大満足!!観なきゃソンソン


J/ 『スペース・カウボーイ』で、まず驚かされることは、今の年寄り(失礼)は、元気がいいなぁということだね。

B/ あのクリント・イーストウッドが70歳なんてね。とても信じられないわね。

J/ ジョン・ウエインが、老ガンマンの役を演じた『ラスト・シューティスト』が69歳、チャップリンが年老いた喜劇役者を演じた『ライム ・ライト』が63歳、バート・ランカスターの『家族の肖像』が62歳、アレック・ギネスのオビ・ワン・ケノービー老が63歳っていう のと較べるとね。

B/ ジョン・ウエインは、病気ということもあって、特別老けていたのはわかるけれど、イメージから言うと、みなさん60代の後半から70 歳くらいになってたかくらいかと思ってたわねぇ。

J/ 確かにイーストウッドの役柄は、歳相応の設定になっているのだけれど、54歳のトミー・リー・ジョーンズより走るのが速い(笑)

B/ この映画の主役たちの年齢が、ジェームズ・ガーナーの72歳が最高齢、ドナルド・サザーランドが66歳、唯一トミー・リー・ジョーン ズだけが、実年齢は若いのね。その彼と対等に走れるってとこを見せたかったから、ひとり若い人をいれたのかなって勘ぐりたくなっちゃ うよう。(笑)「俺はまだまだ出きるぜ」って。まぁ、実際鍛えてるんだろうなとは思うけれど。

J/ でもこの映画の心意気っていうのは、まさにそれなんだよね。おじさんたちが老けこんでいない。まるで若者のような無邪気さがある。 『ストレート・ストーリー』も真実だろうけれど、歳を取っても、人間気持ちはそんなに変わるもんじゃないっていうのも真実なのだろう なとも思う。

B/ この映画を観ると、おじさんたちは、元気が出てくるでしょうね。それこそヘタな精力剤なんかより効き目があるんじゃないかしら(笑)

J/ イーストウッドは、まだまだ10年は、こんな調子で映画を作るよって意気込んでいるよ。嬉しいやね。この映画には、彼のそうしたメッ セージが込められているようだね。

B/ ファースト・シーンは、彼らの若き日が映し出される。宇宙探索の実験飛行のため、飛行機で高度の限界まで飛ぶ訓練をしている。ロケッ トの打ち上げの日に備えて。むちゃくちゃなのは、若い時も歳を取ってからもいっしょで、無理をし過ぎて高い飛行機を見事墜落させて いる。それが原因ではないのだけれど、プロジェクトが空軍からNASAに移されて、もう少しというところで、彼らは宇宙に行き損な ってしまうのね。

J/ その後の彼らの人生っていうのが、面白いね。イーストウッドは、自分が宇宙に行けなかったのは、トミー・リー・ジョーンズが飛行機を 墜落させたからだって思っていて、その後音信不通の状態になっている。トミー・リー・ジョーンズは、セスナ機にお客を乗せて遊覧飛行 する仕事をしている。けれども無茶はそのままで、アクロバット飛行をするものだから、お客は吐いてフラフラになっていまう。(笑)

B/ ドナルド・サザーランドは、乗り物をジェット・コースターに乗り換えて、その設計をやっている。自分で試乗して「まだ、この辺が物足 りないね」なんて。それぞれが、形を変えてはいるのだけれど、若い頃の夢を捨てきれずにいるのがわかるわね。

J/ ただひとり、ジェームズ・ガーナーだけが、なぜか神父になってるんだよね。なぜたが胡散臭い。

B/ 胡散臭いところが、たまらなくジェームズ・ガーナーなのよね。ただ彼も夢を断ちがたい思いが強くて、逆にまったく関係のない世界に いっちゃったのじゃないかしら。世捨て人というには、人間臭すぎるけれど(笑)

J/ ロシアの宇宙衛星のシステムが故障して通信網が壊滅の危機に瀕して、その修理をNASAが依頼される。けれどもあんまり古い型なので それを修理できるのは、それとと同じシステムをもつアメリカの通信衛星を設計したイーストウッドしかいないということで、彼に白羽の 矢が立つ。彼は、これに乗って条件をつける。自分たちのチームが宇宙に行くことを。

B/ NASAは、彼らを最初から宇宙にやろうなどとは考えていない。どうせ体力的に無理だから、途中で根を上げるだろう。だから利用でき るだけ利用して、後は捨ててしまおうって考えているのね。NASAの責任者は皮肉にも、およそ40年前、彼らから宇宙飛行の夢を取り 上げた、その人。エリート街道を走って、今はこのプロジェクトのトップになっているのね。

J/ この映画は、もちろんSFXも盛り沢山なのだけれど、今のハリウッド映画と違うのは宇宙に行くシーンまでの時間が長いんだよね。宇宙 に行って地球に帰ってくるまでの時間がおおよそ、45分くらい。宇宙に行くまでにすでに1時間20分くらいかかっている。おのずから この映画のテーマといったものが見えてくるよね。その辺りが他のSFX映画とは一線を隔しているような気がするな。

B/ ハイテク時代にあっても、結局最後は人が大切になってくる。ローテクが忘れられてはいけないっていうようなテーマも入っているわね。 コンピュータはあまり得意ではないじいさまたちが、自分の経験と感覚でもってコンピュータの計算ではありえないような技をやってしま う。ハイテク時代のエリートたちは、それに対して為すすべもないといった感じでね。

J/ 映画自体もハイテクが盛り沢山で、映像がすごい割にお話にハートがないものが増えている時代にあってこういう映画を作った、イースト ウッド自身の姿と映画の主人公たちの姿が、重なってくるよね。

B/ 映画の中でも、最初は過去の遺物を見るようだった回りの目が段々に変わってくるのね。「おやじたちなかなかやるじゃないかって」最初 はからかい半分で食事中に精力剤をプレゼントしていた連中も、敬意をもって見るようになってくるのね。逆に若者に精力剤を贈るじいさ またちの、年寄りの冷や水的な、でも心意気の気持ち良さ。

J/ ドナルド・サザーランドなんて目がだめで、視力検査で、並んでいるアルファベットを暗記して、下の小さい文字だけを言っている。実は 検査技師の女性は、それを知っているのだけれど、知らないふりをして後でさりげなくサングラス風にしたカッコイイ眼鏡を贈るなんざ、 粋だよねー。

B/ 彼らもやっぱり歳で、走れば息が切れるし、訓練にもヘトヘトなんだけれども、そこは表に見せないようにして、頑張っている。それで回 りの人もそのことに気付いてはいるのだけれど、彼らの心意気に感じて知らない振りをしている。そんな温かさがとても良かったわ。私た ち観客もいっしょに頑張れーって気持ちになっちゃうのよね。

J/ 「いつへばるが見物だぜ」って憎まれ口をたたいている昔の同僚も、どこか応援しているところがあるんだね。それに引き換え、それを快 く思わないのが、エリートたち。でも結局一番役に立たなかったのが彼らだったというのが、図式的とはいえ、快感だよな。

B/ 私は、宇宙に行ってからは、なんか『アルマゲドン』みたいになっちゃって、それほど面白いとは思わなかったのね。なぜロシアの衛星と アメリカの衛星が同じプログラムになっているのかってとか、なぜロシアとNASAのおエラ方が衛星を直すことに執着したかっていう 謎も、それほどすごいとは思わなかったし。もう誰か犠牲者がでるぞーっていうのも読めちゃったし。

J/ でもさ、この映画と『アルマゲドン』が違うのは、悲壮感がそれほどないんだよ。あくまでも前半のペースの延長線上に、後半のアクショ ンがあるんだよ。決して突然ヒロイックになってしまうわけではないんだ。彼らにとっては例え悪夢になろうとも、それは彼らの追いかけ た夢に過ぎないんだよね。

B/ なるほどねぇ。

J/ だからこの映画には凱旋帰国して、アメリカ中が大歓迎するするシーンはないんだよ。それじゃ白けちゃうけれど、そうはなっていない。 ラストで主人公が月を見上げる。同じ頃、月では地球を眺めている人がいるってところで終わる。そこがいいんだ。

B/ 映画自体が少年時代から持ち続けた男たちの夢になっているってわけね。

J/ おじさんたちのロマンっていったらいいかな。そういう意味では、この映画は僕たちを含めた若い世代へというよりは、もっと年齢の高い 人たちをターゲットにした「大人の夢物語」っていうのが本当のところなんだろうね。

B/ 実際、この映画は映画館に通わなくなったおじさんたちの足を映画館に向けさせたみたいね。ほら床屋さんにも「これから『スペース・カ ウボーイ』見に行くから、そんなに待たなくちゃいけないんじゃ、また日を改めてくるよ。」って言ってたおじさんがいたじゃない。とて も微笑ましい会話だなぁって思ったわよね。

J/ ポール・ニューマンが、今の映画は若者ばかりがターゲットになっていて、やたら爆発シーンやSFXが目立つだけで内容がない。こんな 映画しか作られないのでは、もはや私は引退するしかない、みたいなことを言ってたんだ。けれどもこんな映画がもっと出てくれば、きっ とポール・ニューマンも引退しないで済むと思うよ。(笑)

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