天手力男神
アメノタヂカラオノカミ
別称:天手力雄命性別:系譜:天岩戸の前に集まった神々の一柱。神格:力の神神社:戸隠神社、佐那神社、白井神社、湯島神社、雄山神社、石刀神社、手力雄神社
 天手力男神は、天岩戸隠れのときに天岩戸の扉を開けて天照大神を引き出す役目で活躍した神として知られる。名前の通りに手の力(腕力)の象徴、つまり人間の筋力に宿る霊を神格化した神である。
 強力な肉体的なパワーを所有したいという欲求は、人間の永遠に持ち続ける夢といえよう。それを擬似的な空想の世界で実現しているのがスーパーマンやアニメのキャラクターといったものだ。天手力男神の姿には、そうした人間の肉体的なパワーへのあこがれが反映されているといっていいだろう。神話では、怪力ばかりが強烈にイメージされるが、この神は一般にスポーツの守護神としても信仰を集めている。筋力を鍛え、それを生かす技術を含めたパワーを与えてくれる霊力を備えた神さまでもある。
 この剛力のイメージを持つ神の姿というのは昔から庶民には人気があったようで、それをうかがわせるのが日本の各地に伝わる神楽である。たとえば、全国的にもよく知られている宮崎県高千穂町の夜神楽があるが、そのなかに天手力男神が主役となって舞われる「戸取舞(トトリノマイ)」というのがある。この神がその怪力で岩戸を投げ飛ばしたという伝承に基づいたもので、力感的で勇壮な舞は夜神楽のなかでも特に人気を博している。そのほか、里神楽のなかの「岩戸神楽」と呼ばれるものも、天手力男神が主役の「岩戸開き」の場面に重きを置いて演じられる神楽のひとつである。
 日本の昔話や民俗伝承には、しばしば怪力を誇る怪異なキャラクターが登場する。要するに妖怪の類に近い存在なのだが、多くは人々に親しまれている。国技の相撲に象徴されるように、日本人は剛力のイメージに対して独特な嗜好があるように思える。そういう感覚があるから、神楽などでも天手力男神の力強い踊りが人気になるともいえよう。