大屋津姫神
オオヤツヒメノカミ
別称:大屋都媛命性別:系譜:素盞鳴尊の子。五十猛神の妹神格:木種の神、木製品の神神社:大屋津姫神社、猛島神社
 記紀神話には、国土に樹木の種を植えて日本を緑豊かな国にした神さまが四神登場する。そのうちの三神は素盞鳴尊の子供で、兄神五十猛神、妹神の大屋都姫神、爪津姫神(ツマツヒメノカミ)である。大屋都姫神の木種の神としての基本的な性格は、兄神の五十猛神と同じと考えていいだろう。つまり、神話にあるように、大屋都姫神とその兄妹の三神は、父神素盞鳴尊に連れられて新羅から紀伊国(和歌山県)に渡り、そこから全国各地へ出かけて植樹の事業を行い、それが終わると紀伊国に戻って住んだということである。いってみれば、兄神五十猛神を中心とした植林事業を、妹二人が補佐したということである。
 ただし、単に補佐的な役割としてひとつの神格がイメージされるというのにはやはり疑問がある。そもそもなんらかの神霊の存在を感じるから人間は神をイメージするのである。単に植林事業だけなら、猛々しい力を持った男性神のエネルギーだけで達成することができるだろう。しかし、現実の樹木というのは、そこに生えているだけではなく、生長した樹木を材料として、そこからわれわれの生活に必要なものが”生み出される”ものである。その生む力を象徴するのが女性神と考えることができる。
 大屋都姫神の神明の「屋」は、家屋のことであり、おそらく古代では宮殿を指していたのであろう。また、爪津姫神の「爪」は「抓」であり、屋舎を作るために製材した材木のことを意味している。つまりこの神は、樹木が宮殿、船、家材などの構築物を生み出すものとしてイメージされた神格なのである。それがやがて木を材料として作られる一切のものを司る神さまというふうに考えられるようになった。そういう意味でいえば、大屋都姫神は日本の木の文化の祖神といえるわけである。